「桐島、部活やめるってよ」「クヒオ大佐」吉田大八

 吉田 大八監督は非常に独特な映画を撮られる監督で、そのフィルムに対する独特な視点は「桐島、部活やめるってよ」や「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」においても健在です。特に、最近公開された「紙の月」に関しては賛否両論を巻き起こしたものの非常に高い評価を得ている監督です。人気バンドスピッツのPVなどを作ったことでも知られるディレクターであり、今後の活躍に目が離せない人物の一人でもあります。

略歴

 ラ・サール高等学校、早稲田大学第一文学部卒業。1987年にCM制作会社のティー・ワイ・オーに入社。以降、20年間CMディレクターとして数々のテレビCMを手掛け、様々な広告賞を入賞しています。テレビCM以外には、ミュージック・ビデオやテレビドラマ、ショートムービーなども演出しており、2007年には、初の長編劇場用映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』を監督し、同年の第60回カンヌ国際映画祭の批評家週間部門に招待されストーリー題となりましました。

2013年、『桐島、部活やめるってよ』で第36回日本アカデミー賞最優秀監督賞、最優秀作品賞を始め各賞を入賞。同作は初動が振るわなかったものの、鑑賞者による口コミの広がりにより6か月以上に及ぶ異例のロングラン上映となりましました。

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ
「桐島、部活辞めるってよ」を観てから、後追いで吉田監督の作品を観てみよう!ということで選んだ本作です。 制作年だとこの作品よりも後だけど、「ヤング・アダルト」の日本版といった感じです。 都会に出ただけで文化人を気取る勘違い女が、糞つまらない田舎に帰ってくる。しかし、「腑抜け~」は、田舎に住む人々も一筋縄ではいかない人物ばかりでした。 個性的なタイトル、基本的に家の中で進む物語、人物の配置の仕方、そしてドロドロの物語。いかにも小劇場でやりそうなネタだなあ。と思ったら、実際に戯曲の映画化なんですね。よくも悪くも納得。安易な題材選びだなあと思いますが、よくあるネタでも手を抜くことなくキッチリ作られていて、飽きる事無く観る事が出来ましました。とても丁寧に作られた作品です。文通相手の映画監督から「次の作品の主演女優をあなたにお願いしたい」という内容は、オチを知ってから思い出すと、ニヤリとさせられます。そういうさりげない伏線が随所に張られています。 好きなのは、クライマックスと結末の絶妙なサジ加減。戯曲ではどうなってるかは分からないけれど、吉田監督は物語の結末をどこにするかの判断が上手いなあ、と思います。「ラストが蛇足」という意見もありますけれど。「本当に面白いのはここからだ!」と宣言してまで念押しする結末。ただ恨みを発散させる絵を描いただけでは終われないです。カタルシスを味わっただけでは物語は終われないです。本当に作品が形になる瞬間を観られて良かったです。
桐島、部活やめるってよ
 群像それぞれの人物は、実状の高校生活風景に比べるとおそらくは、ややオーバーであり、また、そこまでわかりやすいものでもないとは思うが、しかし、抽象化され、抽出されたエッセンスは確かに織り込まれていると思います。 かっこ良くても無味無臭の生き方が幸せなのか、かっこ悪くても情熱の薔薇が咲く生き方が幸せなのか。モテないやつらの援軍となるのはもちろん、神木隆之介役の方なのだが、ただ、この映画のテーマは桐島なので、その「理想の生き方」に比べると誰も彼もコレジャナイ、ココジャナイ感を抱えて生きていくのだろう。 スクールカースト上位にいた奴らはこれを見て呪われてしまえばいいと思うのだが、でも多分、そんな方向で他人の不幸せを願っても仕方なくて、スクールカーストとどう腹をくくって対峙していくか、また、同調圧力のある中でどう正直に生きていくかを、この映画から感じることが出来るかも、そんな気がする。
クヒオ大佐
 「騙される人間は騙して欲しい人間」というのはよく聞くストーリーで、「信じる者は騙される」のかもしれないです。そういう人間の内面をもう少し掘り下げて欲しかったが、中途半端なブラックコメディーや政治ネタの風刺等々で、ぼやけた作品になってしまった。内野聖陽が詐欺師やった方がよかったんじゃないかと。堺雅人の演技もコミカルさを出そうとして失敗しているというか。一流の詐欺師は恨まれないそうだが、恨まない女、恨む女、騙されない女の3者3様は見ていて興味深かったです。
紙の月
 もうちょっと上手い見せ方は無かったのかな。ラストシーン、タイで自分が募金した相手の男の子は、別に募金があろうがなかろうが立派に大人に成長していた。単なる「ヒモ男に入れ込んだバカな中年人妻の不倫ストーリー」です。自由になりましょう」と囁くのが梅澤、「お金じゃ結局自由になれないわよ。でもこれがお金や欲望、そして善意にまつわる奥深いストーリーになっており、吉田大八監督の演出力に舌を巻きます。人間落ち着く所に落ち着くようになってんの」と囁くのが隅さん。隅さんには「お金で買える自由はここが限界」と気付かされる。私は観ながら「梅澤みたいには行動できんなぁ……」と思っていましたが(大多数の人はそうでしょう)、梅澤が隅さんに「もっと怒ればいいのに」と言うのも尤もな様に思える。本来唯の紙切れに過ぎないお金に縛られている私達はどうしてもモラルの壁を乗り越えてしまった梅澤にどこか憧憬を禁じ得ないです。お金なんて所詮は価値のない偽物よ。そしてもう一人は小林聡美演じるベテラン社員の隅さんです。それでも彼女は窓から飛び出して偽りの自由で生きることを選んです。一人は勿論、宮沢りえ演じる営業マンの梅澤。それぞれが頭の中の天使と悪魔だと考えれば実に分かり易い。まあ流石にあんな突発的な逃亡の末に、タイまで逃げられるのは無理有り過ぎるとも思ったのですが。しかし最後にそんな夢は醒めます。「横領しちゃえばいいじゃないです。リンゴを無言でほおばる彼女の眼からはそんな人生に対する呪詛すら感じる。唯の札束よ。彼女の善意はまるっきり無意味なものでした。自由でもなければ、善意にもならず、単に無意味な人生。それが彼女が選んだ偽りの自由の結果なのでしょう。この映画には主人公が本質的に二人いる。この瞬間の描き方が実に皮肉となっていて素晴らしかったです。

監督作品

映画

  • 腑抜けども、悲しみの愛を見せろ《2007年、出演:佐藤江梨子、佐津川愛美、永作博美、永瀬正敏》
  • クヒオ大佐《2009年、出演:堺雅人、松雪泰子、満島ひかり、中村優子》
  • パーマネント野ばら《2010年、出演:菅野美穂、江口洋介、小池栄子、池脇千鶴、宇崎竜童、夏木マリ》
  • 桐島、部活やめるってよ《2012年、出演:神木隆之介、橋本愛、東出昌大、大後寿々花》
  • 紙の月《2014年、出演:宮沢りえ、池松壮亮、大島優子、田辺誠一、小林聡美》

舞台

  • ぬるい毒《2013年9月、紀伊國屋ホール、出演:夏菜、池松壮亮》

ショートムービー

  • 男の子はみんな飛行機が好き《出演:三浦友和》*『SO-RUN MOVIE ソーラン・ムービー』の中の1編
  • dolce 実況ホテル/2つの教室/カリスマ写真家
  • ミツワ《出演:板尾創路、樋口可南子、市川実日子、中村獅童》

テレビドラマ

  • STAFF ONLY TAKE-99(CX 出演:宇崎慧、松尾スズキ)

PV

  • スピッツ「流れ星」「愛のしるし」《撮影:松永正之》
  • 高橋優「陽はまた昇る」

映画祭実績

  • 男の子はみんな飛行機が好き
  • ショートショートフィルムフェスティバル2002 招待上映
  • 第6回水戸掌編映像祭 招待上映
  • TJSFF トロント日本掌編映画祭《カナダ/2004》
  • クレルモン=フェラン国際掌編映画祭 《フランス/2005年》
  • プラネット映画祭05
  • ドレスデン・アニメーション&掌編国際映画祭《ドイツ/2005年》
  • THE JAPANESE FILM SEASON《ロンドン/2005年》
  • 「dolce 実況ホテル/2つの教室/カリスマ写真家」
  • クレルモン=フェラン国際掌編映画祭 参加《フランス/2003年》
  • 腑抜けども、悲しみの愛を見せろ
  • カンヌ国際映画祭 "批評家週間"
  • カルロヴィヴァリ国際映画祭 Another View部門
  • 釜山国際映画祭 A Window On Asian Cinema部門
  • ワルシャワ国際映画祭 Free Spirit Competition部門 大賞入賞
  • "2Morrow" 国際映画祭《モスクワ》コンペティション部門
  • AFI《アメリカ映画協会》International Feature Competition部門
  • パーマネント野ばら
  • プチョン国際ファンタスティック映画祭NETPAC賞《アジア最優秀映画賞》

入賞歴

  • 第34回ヨコハマ映画祭作品賞および監督賞《『桐島、部活やめるってよ』》
  • 第67回 毎日映画コンクール日本映画優秀賞および監督賞《『桐島、部活やめるってよ』》
  • 第36回日本アカデミー賞最優秀作品賞及び最優秀監督賞《『桐島、部活やめるってよ』》
  • 第38回日本アカデミー賞 優秀監督賞《『紙の月』》